同じ学部の若利くんは私をよく見ている話
『きみの好きな味』 春。大学の入学式の日、私が見上げたのは、満開の桜じゃなかった。「すまない。怪我はないか」 人波から頭ひとつ抜けた、大きな男の人だった。 式典会場へ続く道は、真新しいスーツを着た新入生と、その家族で…
続きを読む →『きみの好きな味』 春。大学の入学式の日、私が見上げたのは、満開の桜じゃなかった。「すまない。怪我はないか」 人波から頭ひとつ抜けた、大きな男の人だった。 式典会場へ続く道は、真新しいスーツを着た新入生と、その家族で…
続きを読む →『熱帯魚のいる部屋』の続編です。牛島×生き物シリーズになる予感。 『モルモットのいる部屋』 玄関の扉を開けた彼女は、大きな荷物を両手に抱えていた。 片方は布のかかったケージ。もう片方は、牧草やフードが詰め込まれた袋だ。…
続きを読む →昨年のいい夫婦の日にXで掲載していたSSです。乗せ忘れてました。めっちゃ短いです。800文字くらい。 『11月22日』 ケーキ屋の紙袋が、指先にほのかな温度を残していた。 仕事帰りの冷たい風の中に、そのぬくもりだけがや…
続きを読む →『溺愛彼氏』 彼女は、自分がかわいいことを知らない。 教室の隅で静かに本を読んでいるときも、名前を呼ばれて少し遅れて顔を上げるときも、褒められて困ったみたいに笑うときも。 全部、わかっていない。 だから厄介だった。 …
続きを読む →『Stay Gold』 昼休みの一時間は、仕事の予定表の中でぽっかり空いた空気穴みたいなものだった。外に出た瞬間、六月の東京はもう少しだけ夏の顔をしていて、アスファルトの照り返しが革靴の底からじわじわ上がってくる。ネク…
続きを読む →『熱帯魚のいる部屋』 「はあ、やだなあ。長いなあ」「長いな」 出張は一か月だと、彼女は少し困った顔で言った。キャリーケースの横にしゃがみ、膝に置いた手をぎゅっと握っている。俺はその言葉の長さを、日数としては理解した。三十…
続きを読む →こちらの続編です。chapter2まで執筆済み。(全5chapterの予定)誰もハッピーじゃないので、みんなハッピーになってもらいたくての続編です。 『Panorama』 マリーゴールドが、揺れている。 「じゃ、戸締り…
続きを読む →『帰路に着く』 誰にも気づかれない日が、少しずつ増えていった。 はじめのうちは、たまたまだと思っていた。 朝の改札で肩がぶつかりそうになっても、相手は謝らない。職場近くのカフェで注文しようとしても、店員さんは私を通り…
続きを読む →『口述筆記』 ※昭和初期の作家パロです。駆け出し小説家の赤葦先生とその担当編集さんのお話。 【一】 夕暮れの銀杏並木は、斜陽を孕みながら色を変えつつあった。 黄葉の隙間を縫うように光が差し、石畳に細かな金の粉をこぼしてゆ…
続きを読む →『バレンタイン・ブランデー』 この時期になれば、街の色がじわりと紅く染まる。ハートの飾りが視界の端に引っかかって、デパートの催事場に足を踏み入れた瞬間、甘さが空気ごと喉に触れてくる。ディスプレイも、試食の匂いも、乙女た…
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