うつろぐ一年目 日村視点

日村視点。

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「来年はオレに本命チョコ、くれないか?」

 面白いなこの人。って思った。

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 新学期が始まってすぐ、軽音の練習を見に来る人がいた。別に見学者自体は珍しくないし、すぐに辞められるくらいなら、ちゃんと見極めてから入部してもらった方が、お互いにとっていい。
 けれど、春から梅雨に入るまでの数カ月、見ているだけの人がいた。確か選択授業で一緒だった人。二年生が見学しているのは珍しいからすぐに気付いた。

 時々思っていたけれど、この人は声がいい。
 ボーカルをやればいいのに。

 昇降口でばったり会って声をかけても入部しなかった。夏のライブを観てもらっても同じだった。あんなに見学していたのに。まあ、合わないと思ったのなら仕方ないか。と思いながらいつもの校舎裏に練習しに行くと、落ち葉を頭に乗せたまま座り込む人を見つけた。
 夏のバイク屋であった時と同じ顔をしているのに、目だけが違う人。いつもの、親しみのある真面目なあの人とは真逆だった。ああ、そう言えば暴走族みたいなバイクに乗っていた気がする。なるほど。でもこの人にその格好は「似合わない」──ただそう思った。
 それから連絡先を交換して、時々メッセージがくるようになった。内容も真面目で当たり障りのない話。海藤くん達とラーメンに行ったとか、雨降ってたけどちゃんと傘さしたか? とか、そんな話ばかり。一度もデートに誘ったり、気のあるメッセージを送ってこなかったから、通知音が鳴っても気は楽だった。

 そんなアナタから本命チョコがほしいと直談判された時は驚いた。想われていたとは露知らず、海藤くんとそういう関係なのかと聞いてしまった。……わざわざ聞かなくてもいいことなのに。

 「アナタが誰を見ているのか」を確かめたかったんだとおもう。

 私は、どこまで見られていたんだろう。
 今まで見られることが嫌で避けてきたのに、知りたくなった。
 
 本命チョコの予約なんかをする、彼の発想力のせいかもしれない。

 レンズの奥の揺らぎから滲む誠実さと、低くて余韻のある声で呟く「本命」という言葉になぜか胸がぎゅっとなった。

 まだ、この気持ちに名前をつけられるほどの確信はないけれど。
 友達以上に進んでも、怖くないのかもしれない。

 ──窪谷須くんとなら。