訳あり男の松川くんと結婚する話
マリーゴールドが、揺れている。 「じゃ、戸締り忘れないようにね」「わかってるって、キー忘れてるよ」「ありがと、あと、夜更かししないようにね」「はいはい」 鮮やかな橙と山吹が美しい花束を抱えた夫に、先週納車されたばかり…
続きを読む →マリーゴールドが、揺れている。 「じゃ、戸締り忘れないようにね」「わかってるって、キー忘れてるよ」「ありがと、あと、夜更かししないようにね」「はいはい」 鮮やかな橙と山吹が美しい花束を抱えた夫に、先週納車されたばかり…
続きを読む →『帰路に着く』 誰にも気づかれない日が、少しずつ増えていった。 はじめのうちは、たまたまだと思っていた。 朝の改札で肩がぶつかりそうになっても、相手は謝らない。職場近くのカフェで注文しようとしても、店員さんは私を通り…
続きを読む →『バレンタイン・ブランデー』 この時期になれば、街の色がじわりと紅く染まる。ハートの飾りが視界の端に引っかかって、デパートの催事場に足を踏み入れた瞬間、甘さが空気ごと喉に触れてくる。ディスプレイも、試食の匂いも、乙女た…
続きを読む →『いつもの和室』 ある日。 和室で、彼女はうつ伏せになって本を読んでいた。 畳に頬が近い距離で、い草の匂いをゆっくり吸い込んでいる。あの匂いが好きなんだ、と前に言っていたのを思い出す。白い障子越しの光が、昼の輪郭をやわ…
続きを読む →『残暑にお見舞いされる』 東京の暮らしに、区切りをつけた。戻ってきた宮城の空は、思っていたよりも高くて、思っていたよりも静かだった。私がここへ戻ってきたのは、家業を継ぐためだった。不動産の大家業を営む家に生まれ、一人娘…
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